「叱る」とは何か:その本質を見つめ直す
僕たちは子どもを叱ることに、どこか正義や必要性を感じてしまいます。「叱らなければわからない」「甘やかしてはいけない」──そんな価値観が社会に広く浸透しています。
しかし本書では、「叱る」とは単に相手の行動を正すだけでなく、力関係の上に成り立つ行為であり、時として攻撃性を含むと語られます。親から子へ、上司から部下へ、教師から生徒へ──この非対称な関係の中で、人は“伝える”ではなく“制圧する”ことに傾いてしまうのです。
また、本書は「叱る」と「怒る」の違いにも触れています。「叱る」は建設的な目的(行動の修正など)をもった行為であるのに対し、「怒る」は自己の感情をぶつける発散的な行為です。しかし実際には、この2つが混同され、怒りに任せた叱責が“しつけ”として正当化される場面が多いのです。この混同こそが「叱る依存」の温床でもあると著者は警鐘を鳴らしています。
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脳科学から見る「叱る」のメカニズム

叱るとき、私たちの脳内では怒りや恐怖に関係する扁桃体が活性化します。そして、叱ったあとに相手が従ったときには、脳の「報酬系回路」が刺激され、一種の快感すら得てしまうのです。
これが、「叱る」という行為を習慣化させ、無意識のうちに繰り返す原因になります。言い換えれば、叱ること自体が“クセになる”状態──これが「叱る依存」の始まりなのです。
「叱る」に依存する心理とは
親が子どもを、上司が部下を、何度も叱る。その背後には「自分は正しいことをしている」という処罰感情の充足や、「自分が相手を導いている」という自己効力感があります。
しかし本書では、それが実は“自分の不安や無力感を和らげるため”の行為である可能性を指摘しています。叱ることで、自分が保たれている──その構造に気づかされたとき、僕は子育てにおける自分の言動を振り返らずにはいられませんでした。
依存症としての「叱る」行為
著者は「叱る依存」がアルコールやギャンブルといった他の依存症と構造的に似ていることを説明します。繰り返すことで離れられなくなり、エスカレートしていく──まさに依存症の典型です。
問題は、叱ることが社会的には“しつけ”や“指導”として許容されやすいため、その依存がなかなか可視化されないことにあります。だからこそ、私たち一人ひとりが気づき、手放していく必要があるのです。
虐待・DV・ハラスメントとの境界線
「叱る」と「虐待」「DV」「パワハラ」の違いは何でしょうか?それは“目的”と“手段”の違いであり、また“相手の尊厳を保っているかどうか”の違いでもあります。

著者は、叱る行為が正当化されることで、暴力的な関係性が温存されてしまう危険性を指摘しています。子育てでも、職場でも、「これは指導だから」と言い訳する自分がいないか、僕自身も自問するようになりました。
社会に根付く「叱る依存」の構造
「厳しいほうが人は育つ」「叱られて学ぶのが当たり前」──そんな価値観が、学校や企業、司法制度にまで根を張っています。著者はこうした社会の構造こそが「叱る依存」を再生産していると指摘します。
叱ることで秩序を保つ社会は、過ちを犯した人が立ち直る機会を奪い、やがて誰もが“叱られる不安”に縛られる社会になっていく──それは、僕たちが望む未来ではないはずです。
「叱る」を手放すために
本書の終盤では、「叱らない」社会を目指すためのヒントが提示されます。大きく社会を変えていく「マクロな視点」と、家庭や職場でできる小さな実践「ミクロな視点」。
特に印象的だったのは、「前さばき」という考え方です。問題が起きてから叱るのではなく、起きる前に信頼関係や対話で予防していく──この視点は、子育てにもマネジメントにも共通する大切な姿勢だと感じました。
本書を実体験に活かす

僕がこの本を手に取ったきっかけは、ある家庭内での出来事でした。子どもがあるいたずらをしたとき、妻から「もっと厳しく叱ってよ」と言われたのです。
そのとき僕は心の中で疑問を持ちました。「厳しく叱っても、子どもはネガティブになるだけで本当の意味で反省するんだろうか? 怒られるのが怖くて行動を止めたとしても、それは“理解して納得してやめた”ことになるのか?」と。
この疑問こそが、本書の核心に触れるものでした。「叱る」ことで一時的に行動を止めさせても、そこに本質的な理解や成長はない。本書ではそれがむしろ“依存”や“支配”の一環となり、相手の内発的動機づけを奪う危険性があると述べられています。
家庭でも職場でも、相手にきちんと説明をすれば、伝わることは多いです。感情をぶつけるのではなく、落ち着いて根気よく説明する──それこそが、親や上司の本来の役目なのだと、本書を通じて改めて感じました。
叱ることは、決して悪ではありません。ただし、その背景にある自分の感情や構造に無自覚なまま繰り返すと、関係は少しずつ壊れていきます。
『叱る依存が止まらない』は、親として、上司として、そして一人の人間として、“怒り”に頼らない関わり方を考えるきっかけをくれる一冊です。
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